スポーツ大国で味わうフットボールと肉の味


ここはサッカー不毛の地、アメリカ。



とは言え、押しも押されぬスポーツ大国である。日本代表が親善試合を行ったフロリダ州タンパは、大リーグのヤンキースのキャンプ地として日本でも馴染みのある土地。コスタリカ戦とザンビア戦の会場となった約6万5000人を収容するレイモンド・ジェームス・スタジアムは、フットボールで有名らしい。







言うまでもなく、こちらでのフットボールはサッカーではなくアメフト。NFLに所属するタンパベイ・バッカニアーズのホームであり、NFLの優勝決定戦であるスーパーボールも2度行われているとか。加えて、大リーグのタンパベイ・レイズも本拠を構えていることもあり、野茂英雄、森慎二、岩村明憲、松井秀喜とそうそうたる顔ぶれの日本人選手が当地でプレーしてきた。







NHLのタンパベイ・ライトニングを含めて、3つのメジャースポーツの本拠地であるタンパ。しかしながら、そこは4年に1度のワールドカップ開幕直前である。スポーツバーに入ってみれば、チリ対北アイルランドの親善試合が放送されていたりする。2大会連続のワールドカップ出場となるチリだが、ホーム戦の後半半ばで、0−0。どこも最終調整中かと思いながら画面を眺めていると、目の前にアツアツのTボーンステーキが運ばれてくる。



アメリカ滞在も終盤を迎えた中で、ようやくありつく本場のステーキ。店長の薦めでミディアムに焼かれた肉塊だが、しっかりと焦げ目のついた外見とは裏腹に、ナイフを引けばいとも簡単に身がほどける。口に入れればホロリと繊維が崩れるとともに、肉汁がトロトロと染み渡ってくる。肉の旨味が残るうちに、添えられた香味十分のサフランライスを一気にかき込めば、ひと噛みする度に、口内で肉汁にコーティングされた米粒が新たな味覚を生み出していく。







ジューシーな牛肉に舌鼓を打っていると、テレビの中ではチリのピニージャがディフェンスラインを突破して、追加点を決めた。これで、2−0。ワールドカップ前の国内最終戦で、面目躍如だなと思ったが、何かおかしい。それもそのはず、ステーキに熱中し過ぎて、3分前に決まっていたバルガスの先制点を見逃していた。







あれれ、と思っている内にタイムアップを迎え、2−0でチリが快勝。店内の一番目立つ中央にあるテレビはレイズの試合だったが、6つある画面は、両端と左サイドから2番目はチリ対北アイルランドを放送。メジャースポーツチームが居並ぶタンパでも、やはりワールドカップに向けてサッカー熱も高まっているのか。そういえば、同宿のデンマーク人には挨拶もそこそこにワールドカップに行くのかと問われ、これまた同じ宿にいるカリフォルニア出身のマイクには、ワールドカップのチケット購入方法を教えてあげたことを思い出す。



マイク曰く、「アメリカ人は半分がアメフトやバスケとかに興味があるけど、もう半分はサッカーにも興味はある」とのこと。開幕まで1週間を切り、サッカー不毛の地と言われるアメリカでも、それとなしに盛り上がってきている感じのワールドカップ。一方で、肝心の開催国では反対デモも起こるなど、盛り上がりに欠けているという報道もある。しかし、そこはラテン。そこは王国。始まってしまえば、大盛り上がりになってくれる、はず。


【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。

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