飛行機もない、宿もない。路頭に迷ったクイアバの夜


ブラジルはデカい。



国土は日本の約22.5倍。ロシアを除くヨーロッパよりも、広大な面積を誇る。



必然的に都市間の移動は飛行機が主な足となるが、現在は何といってもワールドカップ開催期間中。世界第5位となる1億9000万人の人口を抱えている上に、世界中からサッカーファンが襲来している状況だ。



通常運行でも混乱気味の空港は、まさにカオスである。構内は人で溢れかえり、運行状況は猫の目のように変わっていく。ゲート変更は当たり前、アナウンスもされずに時は流れ、ボードには突如として最終搭乗案内の文字が躍る。



当然ながら、便数も足らなくなる。リオデジャネイロやサンパウロという大都市ならば、いざ知らず。海岸線から遠く離れた内陸に位置する都市となったら、大変だ。試合前ならば、日数に猶予があるからまだマシである。ワールドカップ料金という憎たらしいほど暴騰している金額を払えば、何とか試合地までは辿り着ける。






問題は試合後である。日本代表がグループリーグ第3戦を行ったクイアバは、南米大陸のど真ん中。要するに内陸も内陸、奥地も奥地である。もちろん、宿も飛行機の便数も絶対数が足りなくなる。



日本がコロンビアに敗れた試合後、深夜にもかかわらず、空港にはブラジル人の他に日本とコロンビア両国のサポーターや報道陣、他国のファンなどでごった返していた。言うまでもなく、サンパウロ行きの飛行機は満席。リオデジャネイロ行きも当然同じ状況。空港内にある24時間オープンのファンゾーンも、仮眠のためにと横たわる人々によって足の踏み場もない。仕方なく深夜に空港外に出るが、もちろん人影もない。






飛行機も取れない。宿もない。ついでに言えば、お金もない。まさに路頭に迷ったわけだ。



しかし、移動も宿もお金も含め、問題を一挙に解決する手段がまだ残っていた。



飛行機はない。電車は都市部では運行しているが、都市間は通じていない。ところが、バスがある。都市内を走る乗り合いバスはもちろん、長距離バスも走っている。次の試合まで幸い日数が多少空いていることから、長距離バスを使えば飛行機に比べれば移動費はグッと抑えられ、宿代も浮かせることができる。






向かう先はブラジル北東部に位置する港町フォルタレーザ。クイアバからは直線距離で約2300キロ。まさに、ブラジルを横断することになる。



しかし、腹は決まった。



薄暗いクイアバの長距離バス乗り場。約2万円強でチケットを購入し、日本でも良く見かけるタイプの長距離バスに乗った。乗ってしまったのだ。


【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。

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